つくること・残すこと③
2.片付ける前に記録写真を残す
何を残すか―。
最初にすべての計画を立てることは容易ではありません。
まずは片付ける場所の記録写真を残しましょう。
使いかけの絵の具セット、イーゼルの状態、壁に並んでいたもの棚の1段1段、書棚に並ぶ本については背表紙の文字が読めるような撮影をすると良いでしょう。
絵を残すことを優先順位の1番にした場合、再び購入可能なもの・図書館などで読むことができる書籍は早い段階で片付けの対象になります。
ただ、書棚はその人の思考であり、分身でもあります。何を集めていて、何を手に取りやすい場所に置いていたのかを記録しておくと、思い切った片付けも進めやすくなります。
悔いが残らないよう、部屋の様子を様々な角度から撮影しましょう。
カメラマンや、写真撮影が好きなお知り合いに依頼するのも良いと思います。
3.片付けの具体的なイメージを共有する。
さて、案外と難しいのがこの「具体的なイメージの共有」です。
親族や手伝いをお願いする方々、それぞれ自分なりの片付けのイメージを持っています。
全員が良心で集まり、故人が残したものを大切にしたいと思っている。
スムーズに活動を進めるためにも、この段階で家のどこに何を保管するか、どこにゴミを集めるか、作品を最終的にどうするか、可能な限り明快に示すことが必要です。
実は、私が今関わっている活動も、このイメージの共有が遅れたため、どうする、どうなるの、あそこでいいの、あそこはダメでしょうなど、迷いながら活動をする時間がありました。すると疲労も重なり、ちょっとピリピリした空気になったりもします。
「この部屋にスケッチ、この部屋に~サイズの作品」と言葉で明快化してもいいですし、私は家をイラスト化し、パッと見てどこに何を置くのかわかるチラシのようなものを準備しました。
*実際に作ったプリントイメージ(変形させています)
処分するものをまとめておく場所にある、まだ使える絵の具や書籍などは、片付けに参加したメンバーを中心に分けて持ち帰ってもらうのが良いでしょう。
美術と関係のない人には、まとめて捨ててよいものかもしれませんが、きっと手伝いに来る人の中には故人の美術仲間もいることでしょう。故人が買った画材、それも使えるものを破棄するのはしのびないものです。また故人が使用していた擦り切れた筆も、絵の具が残るパレットも、絵の仲間にとっては大切な思い出の品になることがあります。
以前、お世話になった先生のご家族から不織布に巻かれた愛用の筆をいただいたことがあります。筆の擦り切れ方から画面へどのような角度で当てていらしたのか想像でき、とても感激したことを覚えています…。
整理の対象となる故人がどのような作家であったかで変わってくるのですが、場合によっては写真や下書き、資料類も整理の対象になります。
どこまで踏み込んで整理をするのかもしっかり決めておきましょう。
プライバシーに関するものはすべて破棄なのか、制作と関連する資料はすべて残すのか、それとも代表作に関するものに絞り込むのか、パソコンデータはどうするか。
これらの資料が残っていることで、故人や作品への理解が深まる可能性があります。
残っている資料の量にもよりますが、数年がかりの片付けになるかもしれない。
こうなると、単純に家族だから、という理由だけでは続けられません。
故人をよく知る、美術にある程度明るい方の熱意が無くてはなかなか難しい作業だと、今現在関わらせていただいて強く感じています。
(④につづく)